社会保障協定は、国際的な人事交流の活発化に伴う年金諸問題について解決するための相互協定です。
問題その1:社会保険料二重負担の問題
社会保障制度は各国で加入が義務化されており、海外赴任者についても適用されます。そのため、3年から5年の海外赴任期間で有っても、赴任国での社会保険料の支払いが必要です。
海外赴任者は赴任期間中、日本の非居住者となりますので一旦日本の社会保険から抜けて赴任国の社会保障制度に入ることも可能ではありますが、その場合日本での加入期間が短くなり、年金の受給資格および受給金額に大きく影響が出ることが有り多くの企業で海外赴任中も日本の社会保険に継続して加入し続けています。
一方で、赴任した国でも社会保険料は支払う必要が有り、被用者としても雇用者側としても大きな負担になっていました。この問題が社会保険料二重負担の問題です。
社会保障協定により、この二重負担が一定期間免除される事が合意されました。
(アメリカの場合:5年間+延長期間)
この結果、赴任期間が一定期間以内の時は日本での社会保険制度にのみ加入し、赴任国制度の加入義務は免除され、社会保険料二重負担の問題が解決する事になりました。
問題その2:社会保険料掛け捨ての問題
次の問題は社会保険料掛け捨ての問題です。海外赴任者が社会保障協定締結以前に赴任国で加入していた期間は一般的に3年から5年間等の短期的なものであるため、赴任国としての社会保障制度の最低加入期間を満たさないことがほとんどとなり、結果的に支払った社会保険料が掛け捨てになっている状態でした。
社会保障協定により、赴任国での社会保険加入期間と日本での社会保険加入期間との通算ができるようになりました。
(注:イギリスと韓国は通算については合意されていません。)
・協定発効後
この結果、赴任期間が限定的な海外赴任者についても、赴任国の最低加入期間の条件が満たされ海外年金の受給資格が発生する事になりました。
現在、社会保障協定締結国と交渉中の国は以下の通りです。(平成30年1月現在)
NO | 国名 | 発効年月 | 期間通算 | 受給開始年齢 | 各国単独の最低加入期間 |
1 | ドイツ | 平成12年2月 (2000年2月) |
有 | 男性: 65歳7ヶ月 (昭和39年以降生まれの人は67歳) 女性:60歳 |
5年 |
2 | イギリス | 平成13年2月 (2001年2月) |
無 | 男性:65歳 女性:61歳 配偶者加算:60% |
男性:1年 (生年月日:1945年4月6日から1951年4月5日まで) 男性:10年 (生年月日:1951年4月6日以降) (日本との期間通算はできません。) |
3 | 韓国 | 平成17年4月 (2005年4月) |
無 | 61歳 (5年ごとに1歳ずつ引き上げ) |
10年 (日本との期間通算はできません) |
4 | アメリカ | 平成17年10月 (2005年10月) |
有 | 男性:66歳 (62歳から繰り上げ受給可能) 女性:66歳 配偶者加算:50% |
10年(40クレジット) |
5 | ベルギー | 平成19年1月 (2007年1月) |
有 | 男性:65歳 (35年以上加入の場合は、60歳から繰り上げ可能) |
なし |
6 | フランス | 平成19年6月 (2007年6月) |
有 | 60歳 (昭和26年7月1日以降生まれの人は段階的に62歳まで引き上げ) |
なし |
7 | カナダ | 平成20年3月 (2008年3月) |
有 | 65歳 | 20年(カナダ国外在住者) |
8 | オーストラリア | 平成21年1月 (2009年1月) |
有 | 男性:65歳 女性:64歳6か月 (女性の受給年齢引き上げ中、2014年7月に65歳) (男女とも2017年7月1日から段階的に67歳) |
10年 |
9 | オランダ | 平成21年3月 (2009年3月) |
有 | 65歳3カ月 (段階的に月単位で67歳に引き上げ) |
なし |
10 | チェコ | 平成21年6月 (2009年6月) |
有 | 加入18年以上の場合:男性67歳6か月、女性66歳4か月 加入28年以上の場合:男性62歳6か月、女性61歳4か月 |
26年 |
11 | スペイン | 平成22年12月 (2010年12月) |
有 | 65歳 (段階的に67歳まで引き上げ) |
15年 |
12 | アイルランド | 平成22年12月 (2010年12月) |
有 | 66歳 (段階的に67歳まで引き上げ) |
5年 |
13 | ブラジル | 平成24年3月 (2012年3月) |
有 | 男性:65歳 女性:60歳 |
15年 |
14 | スイス | 平成24年3月 (2012年3月) |
有 | 男性:65歳 女性:64歳 |
1年 |
15 | ハンガリー | 平成26年1月 (2014年1月) |
有 | 62歳 | 15年 |
16 | インド | 平成28年10月 (2016年10月) |
有 | 58歳 | |
17 | ルクセンブルグ | 平成29年8月 (2017年8月) |
有 | 65歳 | 10年 |
18 | フィリッピン | 平成30年8月 (2018年8月) |
有 | 平成27年11月署名 | |
19 | 中国 | 令和元年9月1日 (2019年9月) |
無 | 平成24年3月第3回政府間交渉実施 | |
20 | イタリア | 発効準備中 日本での社会保険加入期間との期間通算は出来ませんが、受給年齢までの加入期間分の受給が可能となります。 |
無 | 平成24年11月署名 | |
21 |
スウェーデン | 交渉中 | 平成23年10月第1回政府間交渉実施 | 3年 | |
22 | オーストリア | 交渉準備中 | 平成24年3月第3回当局間協議実施 | ||
23 | スロバキア | 令和元年7月1日 (2019年7月) |
平成29年1月署名 | ||
24 | トルコ | 交渉中 | 平成26年5月第1回政府間交渉実施 | ||
25 | ポーランド | 交渉中 | |||
26 | フィンランド | 交渉中 | 平成25年12月第3回当局間協議実施 |
ご参考:
社会保障協定締結国の現状はこちらで。